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右手に萌えを、左手にネタを。

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ふるえる声

すごいねむい…。
なんとなく思いついたのでリハビリがてら。
ひかりじゃないよ。↓
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あかりちゃんハピバ!

前置き↓
マ マ レ ー ド ボ ー イ は 好 き で す か?






 決して違う何かがあるわけではないのに、その空気に思った以上に違和感を感じた。
 少し薄暗く人気の少ない来客用の玄関で、ヒカルは視線を左右に振り、どうしたものか、と思考を一巡させる。隅に少しの下駄箱はあるものの、それを誰が使うのかは知らない。
 自分が中学生であった頃は、確か客は生徒とは違う玄関を使っていた筈だ。
 しかし教師に呼ばれた訳でも無いのだから、普通に昇降口を使った方が良かったのかもしれない。
 そう考えて、踵を返そうとした時、小さくキィと音が聞こえた。

「キミ、どうしたの?」
「っあー…、えっと、部活の指導を頼まれたんですけど」
「キミが?」

 明朗に答える少し恰幅の良い女性が、ジロジロとヒカルを見つめる。それでもなぜか、あまり不躾な印象は受けない。世話焼きのおばさんといった風体がそう思わせるのかもしれない。その両腕にカバーをかけている姿が、いかにもと事務員を示していた。

「部活ってどこの?」
「囲碁部です。俺、こう見えても棋士なんで」

 自分が年相応でない生活を営んでいることは重々承知している。ヒカルはいつもの差し障りのない言葉を連ね、その女性に愛想良く笑った。
 女性は少し驚いたように目を見張り、すぐに笑う。そう、若いのにすごいわね。聞き慣れた台詞だが、それは何度聞いても嫌なものではない。ヒカルはそんなこと無いよと謙遜し、出して貰ったスリッパにようやく玄関を上がる。

「靴はそこに適当に入れておいてね」
「はい」

 成る程、ここから適当にスリッパを頂戴すれば良かったのか。
 関わることの無かった場所が、一つ明解になった。

「これ、書いてくれる?」
「名前だけでイイ?」
「会社…じゃないわよね、棋士は。事務所か何かの名前分かる?」
「じゃあ棋院でいいのかな…」

 示された紙に、何度も使い回されたような印字がされている。来客名簿、と書かれたそれにヒカルは自分の名と日本棋院を記し、ペンと紙を定位置に戻す。

「帰る時はまた寄っていってね」
「分かりました」

 丁寧にお辞儀をし、ヒカルは初めて見るその校舎の奥へと足を進める。スリッパの音がやけに響いて、けれどその雰囲気にはなんとなく身に覚えがある。もしかしたらまだ、授業中なのかもしれない。プロになってからの中学生活は、早退も多くあって人気の少ない廊下を何度も足早に歩いた。

(―――懐かしいな)

 卒業してからのプロ生活は全てが充実していて、もしかしたらあったかもしれない未来に思いを馳せるような性分でもなかった。学業が無いのを良いことに、指導碁の手伝いも良くやらされた。若いのが居るとおばさんには評判イイんだと、名前も知らない中年の男が漏らしていたのを思い出す。
 それでもヒカルは、指導碁をするのは決して嫌いではなかった。

(あれはあれでおもしれぇんだよな)

 相手が打ちやすいように。答えを出しやすいように。導き出すように打つのはまたある種のゲームのようだった。あまりにも初心者であるとそれはやはり些か物足りないが、それでも色んなパターンを考えていく過程は面白い。

 いつかの自分が、彼にそうしても貰ったように。


 不意に、呼び出しを告げる放送が校内に響く。
 ピンポンと、その音は小中高と変わりはないらしい。

『―――先生、電話が入っております』

 その声に、ヒカルは思い当たってふっと笑う。スピーカー越しではあるが、さっきの事務の人だとすぐに気付いた。電話というのも恐らく事務室に届いて居るんだろう。
 その証拠に、少し先にある教室がガラっと開いて、人が出てくるのが見えた。

(ヤベっ)

 咄嗟に物陰に隠れて、その教師が行き過ぎるのを待つ。別段悪いことをしているわけではないが、教師を見たらなんとなく居心地の悪さを覚えるのはもはや条件反射のようなものだった。それはきっと、警察を見るとどうにも自分の身の振りが気になるのと同じようなものだ。

 自分が来た道を戻っていく教師を見届けて、ヒカルは一つため息をついた。

「つーか、授業中ってことはあかりもそうだろうし…どうすっかなー」

 囲碁部の指導に来て!と頼まれたのはつい先日のことだ。いつでもいいの、と控えめに言っていたあかりを思い出す。そんなの遠慮することねぇのに、バカみたいに小さくなって言うもんだから、俺もとんとん拍子で決めてしまった。実はプロ棋士となってしまった俺が一般人に気安く教えることは、あまり良いことでは無いらしい。そう知ったのは約束した後の事だ。

(まぁ、金取るわけじゃねーしな)

 何より世話になってる幼なじみの頼みだ。本人が遠慮したって、それじゃ自分の気が済まない。
 よし、とヒカルは再び歩き出す。とりあえず先に部活で使ってるという理科室に寄ってみよう。授業で使ってるんなら、その近くで気長に待てばいい。
 理科室の場所は―――まぁ、適当に誰か捕まえて訊けばいいだろう。
 そう決め、ヒカルはまた廊下の奥に向かっていく。
 けれどすぐ、その足を再び止めた。

「開けっ放しじゃんか」

 先程呼び出された先生が飛び出してきた教室。ドア半分だけ開いていて、覗いていいよと言わんばかりだった。
 ヒカルもそれに逆らうことなく、チラっと中を覗く。

「保健室か?」

 通常の教室にはあり得ない薬品類や、流し台、机に、包帯や消毒液を載せたワゴン。奥を覗くといくつものカーテンに囲まれて、いくつかのベッドが並んでいる。それらを全部を囲う壁には、所狭しと手作りやら印刷物やらの保健のポスターがが貼られていた。

(ちょうどいい、かな?)

 そう思ってヒカルは静かに、ドアに触れる。横に小さく音を立てて、引き戸の扉を滑らせた。

「失礼しまーす…」

 9年間で染みついた習慣は、そうそう消えるものではないらしい。条件反射のように呟いて、ヒカルはその保健室に足を踏み入れた。途端に懐かしい、消毒の匂いが鼻につく。
 けれど誰か居るかと期待したそこには誰も居らず、ただ少し開いた窓から流れる風にカーテンがゆらめくばかりだった。

「誰も居ないか…」

 呟いた声はやはり小さく、誰に届くものでも無かった。ため息をついて、改めてもう一度中を見渡す。中学のそれとは違うけれど、でも何処か似ていて、決して思うことは無かった未来に今更ながらに思いを馳せる。
 懐かしい。
 そう思うのは、何よりも今がそうではないからだ。
 今更ながらにそれを自覚して、ヒカルは自嘲するようにため息をついた。
 らしくもない。
 先生が戻る前にさっさと行くか。そう思い、入り口に向かおうとした時だった。

「ん…」

 さっきより少し強い風と、揺れるカーテン。その向こうに、見慣れた顔。
 ―――誰も居ないと思ってたのに。
 ヒカルはそのベッドに近づいて、聞こえた声の主を見下ろす。眠っている顔は小さい頃と全然変わりない。呆れてか、それとも可笑しくてか。ヒカルはこぼれる笑みを止めることなく、起こさないよう小さな声で呟く。

「なんでこんなとこで寝てんだよ」

 保健室で寝ているのだから、具合が悪いとかそんなんに決まっている。けれど見る限り顔色も問題なく、特に心配することもないようだった。
 しかし呼び出した本人がここで寝ているなら、自分は一体どうすれば。
 次の行動が思い浮かばず、ヒカルはジッとあかりを見下ろす。いつも結っているはずの髪はほどかれ、枕の上に投げ出されて少しくしゃくしゃだ。起きあがって慌てて髪を整えるあかりを想像して、起きるまで待つ、という選択肢に決めた。きっと驚くだろう。それも面白そうだと、ヒカルは小さく笑って、近くにあった椅子に静かに腰を落ち着けた。

 カーテンをなびかせる風が、時折生徒達の声も運ぶ。恐らく外で体育をしているのだろう。自分も体育は好きだったから、その声と響く音にサッカーか?と予測を立てる。
 何もかもが懐かしい。
 頬を撫でる風が優しいせいか。そう思う自分の心境が、先程のように笑い飛ばす気にはならない。
 後悔なんて欠片もしてない。
 ただそんな未来もあったんだろうと、単純に思うだけだ。
 あかりが着ている制服の対を、着ている自分も居たかもしれないと思うだけだ。

 視界の隅に、新緑の鮮やかな緑。差し込んでくる光は心地よい穏やかさで、この感傷に拍車をかけるようだった。

 布団からひょこりと出されている手のひらを、ヒカルは突く。
 けれど特に反応はない。昔と全然変わらないあかりの様子に、ヒカルはまた頬を弛めた。

 優しく頬をかすめる風と。
 遠くから聞こえてくる歓声と。
 胸を懐かしくされる、この場所と。


 そうして、もう一つ。


 ベッドがギシっ、と少し軋む。
 乗せた体重のせいだろう。けれどそれが気になることはなかった。

 カーテンが揺れる。
 懐かしい。
 遠い日のような。
 けれど確かに、今ここにある。


 初めて知った、幼なじみとの口吻の感触と。


 懐かしいと、そう思うのは。
 決して、今がそうではないからだ。









=========

だ け ど 気になる〜♪
ってことで!(超笑顔)
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桜が散りましたね

 無邪気に近寄ってくる小さな子供にすら辟易するほど、自分は疲れ果てていた。空は枯れ、今にも雨粒を落としそうなほどに暗い。いっそ終われたら楽であろうが、それでもやはり、もう少しだけ、と空に請う。
 闇が訪れる前の、明るい時間。陽光は暖かかったにも関わらず風は冷たく、それに攫われるように仲間たちは去っていった。それは自分たちが出会ったときから、分かっていたことだった。風に攫われる様は美しく、道行く人々が感嘆をあげるほどであったが、その儚さがどうしても尊いものだとは自分には思えなかった。

 ふと。
 ポツリポツリ、と、空が泣き出した。

 ――これで、終わりか。

 既にしがみつく力もない。冷えた水滴が、体に重くのしかかる。

「やだ、傘持ってきてないのに」
「じきに止むだろ。ここで雨宿りしようぜ」

 そう親しげに寄り添う恋人たちが、今までなら微笑ましく思えたのに今は疎ましくてならない。彼らにとってこの雨がなんてことはないということは当に知っている。それでも、その力強い生命力が羨ましくて仕方がない。
 彼らはこれからも、たくさんの時間を越えていくのだろう。
 ……我々を、踏みにじって。

 いよいよと、本格的に振り出した雨粒が自身を叩く。濡れた体が、容赦なく冷えて力尽きていくのをじわりじわりと感じた。
 大地には水が溜まり、彼らはそれを容易に踏みしめる。自覚すらない。足元に落ちた、それは自分の――

 あ ぁ

 もう

 ――お  わ     り             か……

 雨粒の重みに耐えかねて落ちる自身が、それでも思ったよりも絶望的でないことを自覚する。
 良い春だった。
 それだけでいい。


===
書き殴り。ありがちですが。
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いつもなにげに見てるし

「…ヒカル、重い」
「気のせいだろ」

 そんなわけないじゃない、思いっきり背中に寄りかかってるくせして。
 そう反論する代わりに、私は1つ、大きくため息をついた。

 張り付くような鋭い寒さから逃れるように、今日はヒカルのウチでのんびりしていて。…といっても、ヒカルは相変わらず碁盤に向かってばかりだから、私はヒカルの部屋にあった漫画をいくつか拝借して読んでいたんだけど。

 不意に、背中に固くて大きな感触と、
 同時にずしりと、重みがかかる。

「どいてよ」
「なんで」
「なんでって…」

 ヒカル、変。
 なんとなく言葉に刺があるの、長年のつきあいだもん。すぐに分るよ。

 だから私は読みかけの本を閉じて、合わさった背中越しに顔だけを出来るだけヒカルに向けて、ヒカルの逆鱗に触れないよう、静かに訊いた。
 窓が少しガタガタ鳴ってる。
 今日の風はとても元気。

「どうしたの?」

 元気無い?

 そう訊くはずだった。
 だから返って来る言葉なんでまるで予想していなかった。

「それはこっちのセリフだよ」
「え?」

 ふっと、背中にのしかかっていた重みがぬくもりと共に放れていって。
 ヒカルは向き直って、わざとらしく眉根に皺を寄せて見せた。

「こーんな顔して読む本じゃないだろ、それ」
「俺はそんなに、頼りないかよ」

 まるでふて腐れた子供のように、私をジッと見つめて言った。

 ―――それは、ヒカル。

「すごい、不意打ち」
「気付かないと思った?」
「うん、だってずっと詰め碁してたし」
「そりゃそうだけど。
 でも、ほら、俺お前の彼氏だし?」

 そうして自分を指さしながらヒカルが笑って。
 私はヒカルの胸に顔を埋めて。
 ヒカルに触れたその部分から何かが広がっていく気がした。

 それは眠りにも似た心地良く穏やかな気持ち。


===
偶にはヒカルもあかりちゃんを癒せばいいと思ったんだ。
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バイバイ、ヒカル


 なんて浅はかで馬鹿な考えだろう。
 それを承知で尚そうする自分は、どれだけ馬鹿だって言っても足りないくらい。
 それでも試したかった。
 賭けて、みたかった。


 ヒカルの背中をひたすらに追って、追いかけて、ただその後ろを歩いて。
 いつしか後ろを見なくなったヒカルの背中を、それでも見つめてた。
 それで良かった。
 ずっとずっと、それで良かったしそういうものだと信じてた。

 信じて、いたのに。

 少しずつ歩をゆるめる。
 ヒカルと私を隔てる距離が、少しずつ少しずつ大きくなる。
 ヒカルは変わらないスピードで前を歩いて、私は少しずつ、足が重くなったかのようにその速度を落とした。

 気付いて。
 ヒカル。
 ―――気づいて!

 ピタ、と足を止める。
 視線はヒカルの背中に留めたまま。
 だけど当の本人は、それに気づくことも無く、ただ前だけを見据えていて。
 私が立ち止まったことに気づくことも無く、曲がり角をすっと曲がった。
 その瞬間、ちらりと見えた強い瞳。
 力強くなった、その瞳。
 そこに映っているのは、きっとその前を行く、もっともっと――強い人たち。

「…ふっ……ぇっ…」

 唇を強く結ぶ。
 それでも零れる嗚咽は留められなかった。

 気づかないことなんて分かってた。
 それでももしかしたら、と。
 自分の望みに縋って賭けた。
 自分勝手な願いと、自分勝手な行動に、勝手に零れる涙がこの胸を一層切なくさせる。

 耐えられないのはこの胸の痛みか、止める術も無く溢れようとする涙にか。
 私はしゃがみこんで、おでこを抑えるようにして顔を隠した。
 途端に、頭が痛いくらいに涙が溢れて流れた。

 バカみたい、私。
 バカみたいバカみたいバカみたい。

「ヒカ、ルっ……」



 本当は分かってた。
 私のヒカルへの気持ちと、
 ヒカルの、私への気持ち。



 変化は、突然に訪れるものだから。
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